その話は笑えるようで、あまり笑えるものではなかった。
出先から新藤君が帰ってきた時の話である。いつものように新藤君は会社の駐車場に車を止めようとした時、なにか人の視線を感じたのでふと振り返ってみると、社長と総務部長が社長の車に乗ってじっとこっちを見ていたのである。新藤君は不審に思ったけれど、見て見ぬふりをしてその場を立ち去ろうとしたとき、社長が車から降りてきて話しかけた。
「なんだ、新ちゃんか。」
「あっ、社長。どうしたんですか、こんなところで。」
「このあいだ俺の車に傷をつけた犯人を、待ってたんだ。犯人は必ずここにくるはずなんだ。」
社長は先日の日曜、この駐車場に車を止めて置いて自分の買ったばかりのシーマにひっかき傷をつけられ、犯人を捕まえてやるといきまいていたのだ。
「犯人は必ずここにくるはずだ。今日は朝からここで総務部長と張り込みしてたんだ。でもな、来たのが新ちゃんではなぁ・・・。」
新藤君は何も見なかったことにしてその場を立ち去った。
それにしてもである。五十を越えた大の大人がそれも二人、朝から何もしないで駐車場で車に傷をつけた犯人をじっと待ち続ける。そんなにここの経営者は暇なのか、それともただ馬鹿なだけか。この話を聞いた人達は、一様に「はずかしい」を達発していた。
この頃からである。社長と三上部長、総務部長の行動がおかしくなって来たのは。