宮城県内のホヤ養殖が危機に直面している。夏の記録的猛暑の影響で海水温が上昇し、多くの生産地で来年出荷予定の半分が死滅した。東京電力福島第1原発事故後に韓国が取った禁輸措置に伴う東電の補償も11月末で終了した。生産者はなりわいの行く末に危機感を募らせる。
(石巻総局・山老美桜)
東電の補償終了も追い打ち
「今年は『夏腐れ』がひどい。女川町全体で、来年収穫する分の半分以上が死滅した」
11月末、女川町の竹浦漁港。ホヤの種付け作業をしていた県漁協ホヤ部会長の阿部智さん(59)は肩を落とした。
夏腐れとは、ホヤなどの「へい死」を指す。県水産技術総合センター(石巻市)によると、ホヤの生育に適した水温は2~24度とされる。だが、女川湾周辺では8月下旬~9月上旬の水温が24~26度と例年より約3、4度も高かった。担当者は「高水温のまま下がらない時期が続き、ストレスでへい死したのではないか」と分析する。
今夏の高水温による深刻な生育不良は、陸奥湾(青森県)の養殖ホタテでも確認されている。
阿部さんによると、ロープ1本当たりのホヤの水揚げは通常200キロ前後だが、50キロにとどまることもあった。ホヤは種付けから3~5年かけて育てる。夏腐れは来年収穫を控えたホヤだけでなく、生育途上の再来年出荷予定のものにも及んだ。
1キロ当たりの出荷価格は4、5年物で70~80円。不作で来年の単価が3桁になる可能性があるという。阿部さんは「いくら高くなっても売れる物がなければ収入減は免れない」と懸念する。
存続の危機に追い打ちをかけるのが、東電による補償の終了だ。韓国は2013年から、原発事故を理由に輸入を停止。国内で供給過剰となったホヤの価格下落を受け、東電は14年から損失分の補償を続けてきたが、県漁協との協議で11月末で終了した。
石巻市寄磯浜では、ホヤを含む養殖の業者が震災前の34軒から20軒ほどに減った。漁師の遠藤謙市さん(54)は「浜によって海の環境は異なり、養殖の魚種転換は容易ではない。稚ホヤ代を東電の補償でやりくりしてきた生産者の中には採算が合わず、さらに辞める人も出てくるのではないか」と懸念する。