日本一の養殖産地として知られる宮城県のホヤ生産者らが窮地に立たされている。県沖のマボヤから国の規制値を超えるまひ性貝毒が初めて検出され、生産地の多くが出荷の自主規制を余儀なくされているためだ。東日本大震災後の韓国への禁輸や新型コロナウイルスによる価格低下が続く中、旬を迎えるホヤにさらなる困難が追い打ちを掛ける。
「春に始まった水揚げは6、7月が本番なのに…」
県内最大産地の女川町。ホヤ養殖を営む鈴木真さん(25)は船上で不安な表情を見せる。女川沖を含む中部海域のマボヤから5月18日に規制値を超えるまひ性貝毒が検出され、出荷を止めた。規制値超えは県の記録が残る1992年以降初めてのことだ。
4月下旬に水揚げを始めたが、新型コロナの影響による消費低迷で出荷は200キロ止まり。海中で約10トンが水揚げを待つ。
鈴木さんは「父の仕事を継ぎ、やっと軌道に乗ったところだった。この水揚げを逃せば、育ち過ぎたホヤは海底に落ちてしまう」と悔しげだ。
ホヤは出荷できる大きさに生育するまで3、4年かかる。適切な時期の水揚げを逃すなど、ひとたび生産周期が崩れれば、出荷に与える影響は大きい。南三陸町志津川の漁師高橋源一さん(63)は稚ホヤを既に業者へ発注済み。入荷予定は7月で「水揚げができないままだと、いかだが空かず次の仕込みができない」と頭を抱える。
農林水産省の統計調査によると、震災前に年間約8500トンあった県内のホヤ生産量は近年5000トン前後まで減少。県産の約7割を消費していた韓国が東京電力福島第1原発事故後の2013年9月、禁輸措置を取った影響が大きい。生産調整が進み、苦肉の策でホヤ養殖区画を他の魚種に変える漁業者が増え始めた。
県漁協(石巻市)によると、新型コロナの影響で今年のホヤ卸売価格は例年の6割に落ち込んだ。苦境の中、貝毒による出荷規制への対応も強いられている。
県内の鮮魚店では旬のホヤが店頭に並ばない異例の6月を迎える。南三陸町戸倉で店を営む西城寛さん(70)は「ホヤは夏場の看板商品。時季のものがないと寂しい」と話す。
出荷再開には、毒性を示す数値が3週連続で規制値を下回る必要がある。県漁協ホヤ部会長の阿部次夫さん(68)は「生産者は震災の時より厳しく、苦しい状況にいる。廃業が増えないといいが」と危惧する。
[まひ性貝毒]アレキサンドリウム属の植物プランクトンを二枚貝などが摂取することで発生する。毒化した貝を発症量を超えて摂取すると、しびれやまひを起こし、重度の場合は死に至ることがある。マボヤは18日に宮城県中部、21日に北部の海域産からそれぞれ国の規制値を超す値が検出され、陸前高田市と気仙沼市の境-石巻市黒崎で出荷を規制している。